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だったら、4月1日(土)は、
どこへ行こうか・・・
何をしようか・・・
先週の終末は、雨だった。
今週末、この地域は・・・晴れの予報だ。
それなら土曜日の、いちばん、は・・・ 16歳の頃から決まってる。
ずっと雨だったから、止まったままの・・・
ダブル・オーバー・ヘッド・カムシャフト・・・ インライン4。
そうだ。僕の空冷四気筒DOHCエンジンに、火を入れよう。
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30年モノだもの、壊れないほうが不思議。
空冷の四気筒エンジンが、当たり前に存在した時代があったことを、
聞き伝えではなく、原体験として語れるのは・・
もしかして、僕らの世代が・・・最後、なんじゃないか・・・?
30年を・・・さらに越えて、時はこんなに流れても・・・
きみの見た目は、なんにも、変わらない。
初めて出会った、あの日のままさ・・・。
タンクも、それから、エンジンも、まだ輝きを残してる。
でも、お互い、年齢を重ねた・・・。
ウソだろって・・・本気で、思うよ。
出会って、もう、30年・・・。
燃料チャージはキャブレターだから、駆けだすには十分な暖気運転が必要だし、
例え、オイルが熱くなっても、今はもう、1万回転以上は怖くて回せない・・・
きみを壊したくない気持ちは、もちろん、本当だけど。
僕も、もう、若くないんだ。身体がエンジンの回転数に追いつかない・・・
いつも、動きが一瞬遅れるのを感じる・・・それも、本当なんだ・・・。
僕だけの偏見かな?
きみが大好きな理由さ・・・
キャブレター吸気のエンジンには・・・、うまく言葉に出来ないんだけれど、
インジェクター仕様のエンジンには絶対にない、楽しさ があるんだ。
チョークを引いて、掛けるエンジンなんて・・・
もしかしたら今は、知らない人のほうが、多いんじゃないか。
「掛かるかな・・・?」って、スターターを廻す度に感じる、ドキドキ感。
そして、掛かった瞬間の、言葉にできない・・・うれしさ。
きみのエンジンに、もし、キックペダルがあったら、
エンジンを掛ける度に・・・僕は泣き崩れていた・・・かも、しれない。
こんなに好きなのに、
もう二度とラインアップされることのない・・・
空冷四気筒DOHCエンジン。
・・・だから、僕は、繰り返してしまう。
きみへの想いと、
過去と、
現在とが、
交差する時を。
雨の日に、火酒を片手に、これまでにいったい何時間・・・
きみのエンジンを眺めたことだろう。
晴れた日には、16歳だった・・・、あの日に還って。
きみのエンジンの咆哮を、何度、たまらない想いで・・・聴いたことだろう。
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こんなに美しい機械を、僕は他に知らない。
これを造ったひとは、いったい、どんなひとなんだろう。
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憧れてたんだ・・・
『あいつとララバイ』の研二くんの駆る『Z2』に・・・
僕のは・・・1990年2月発売の KAWASAKI ZEP400 Type C2。
オリジナルのメーターはC3以降のと違って、砲弾型じゃなかったから、
SUZUKIのバンディットのを、無理やり、くっつけた。
心配した車検も、このままで、通った!
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正直、C3以降のオリジナルよりインパクトがあるんじゃないかな?
このメーター。あんまりないでしょう?
白い文字盤と、オレンジの指針の組み合わせが、好きなんだ。
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ミラーも角ばったノーマルのじゃなくて、
丸いZ2タイプのショートミラーに変えた。
おかげで、後ろは、なぁーんにも見えなくなったけど、気にしてない。
昔は、右側だけ付けてたけど・・・、規則では左もないとダメみたいだ・・・。
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ウインカーは、オリジナルのはプラスチックが劣化して折れちゃったから、
一昨年、ずっと憧れてた・・・、小さなヨーロピアンタイプのに、替えた。
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ステップは、BEET 工業の『スーパーバンク・バックステップ』
ノーマルのは、おとなしすぎたから、ステップ位置を少し後ろ、少し、上へ変えた。
タンデムステップが付くのが、うれしかった・・・。
彼女は、真夜中に一度だけ、乗ってくれた。
あれからタンデムは1回もしてないけど・・・。
ずっとセパレートだった・・・ハンドル。
取り回しと、何より車検がたいへんだから、今はノーマルに戻した。
あの頃は毎週末、上野のバイク街に、通いつめて、夢に見たカタチを探したんだ。
セパレート・ハンドルにしてた頃は・・・
トップブリッジ外して、ハンドル付けて・・・
タンクに干渉しないか、何度も確かめてから、ハンドル位置を決めて・・・
ウインカーやチョークの操作ユニットがセットできるよう、
そうだ。ハンドルに穴を開ける加工を、ドリル片手にやったんだ・・・。
ガレージのそこだけ、光が当たって、輝いてる感じだった。
組み上がったハンドルを握った、その瞬間。
今でも覚えてる。
きみと、ひとつになれた・・・気がした。
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マフラーは、定番の、モリワキの直管。
焼けて錆びる度に、サンドペーパーをかけて、耐熱塗料を塗り直した・・・。
アクセルを開ければ・・・車検対応って、マジ、ウソだろ・・・ってくらいの・・・いい音。
3速、8000回転あたりのエキゾースト・ノートが最高・・・気持ちイイ。
雨の日は絶対に乗らないから、後ろのフェンダーは取り外した。
ナンバーを取り付けるための代替部品は、厚さ2mmのアルミ板を半日かけて、糸鋸で切り出して作った。気が遠くなるような作業だったけど・・・
すごく、楽しかったな・・・。
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サイドカウルとシールも、テールカウルも、それから、尾灯も・・・
全部、Z2タイプの、それに、変えた。
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もちろん、タンクのエンブレムは旧字体の KAWASAKI に。
古い両面テープはギター用のオレンジ・オイルで剥がした。
あの夜は・・・ ガレージの中が、いい匂いだったな・・・。
全部、よく見なければ、わからないけど。
自己満足だから、イイんだ。
オイルクーラーは、今はノーマルだけど・・・
前は EARL’S のそれを付けてた。
ホースの部品が劣化して割れちゃってから、交換して、そのままになってる・・・
認めたくなんか、ないけど・・・
そうだ、確かに、30年という「時」が、流れたんんだ。
時に、激しく、
時に、静かに。
きみが、赤茶けたサビなんて、まだ知らずに輝いてた、あの日から・・・
今は、もうお互いに、時代遅れさ・・・。でも、それでいいじゃないか・・・
永遠にとまるな・・・
きみの鼓動。
僕は・・・ きみが、大好きだ。
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『タンデム・シートに乗らないか・・・』
隣で、クルマのハンドルを握る彼女に、そう、聞いてみた。
『怖いから、イイ』
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きみは、覚えてるか・・・
菜の花が、咲いてたよな・・・
すごい、気持ちよかった。
彼女が待つ場所へ、
きみと走った・・・。
あの日を。