スノーシューの先端の、登山靴の爪先を固定する部品が、前回の山行で壊れてしまった。

僕に修理できるとは思えなかったけれど、壊れた欠片を山のゴミにするわけにはいかない・・・
写真では3つに分断されたように見えるが、実は右側の部品のベルトを通す部分も破損していて、実際は4つに分断される形で壊れている。
この部品がなくても、靴の爪先を固定するベルトはまったく問題なく機能するので、ベルトと靴の摩擦で靴が早く傷むかな?・・・という心配以外には、何の問題もないような気もしたが。
Web 上に、このことに関して何か情報はないか・・・と検索してみると、これと同じ「部品が破損して、要修理状態ですが・・・」という但し書き付きで販売されている中古の TSL205 を複数発見。
プラスチック樹脂の経年劣化で、遅かれ、早かれ、この問題は必ず生じるのだろうな・・・ と、ひとり納得する。
「最新型に買い替える」という手も、もちろん「あり」だが、新品の価格は2万数千円。毎日使用するならともかく、年に数回使うか、どうか、という「遊び道具(ただし、命にかかわる)」に、今、それだけのお金を支払う気にはなれない。
壊れたのは右足側だけで、左足側は現在のところ、何の問題もないし・・・
それに、いろんな最新型を見てみると、登山靴の固定方法がより一層便利な方向へ、一見「進化」しているように見えるのだけれど、( もし、山で、壊れたら・・・ 現場でリペアできる? )みたいな視点で考えると、ちょっと怖くなるような商品が大多数・・・。
山の先輩から教わった、いちばん、信頼できる靴の固定方法は「ベルトで締め付ける」タイプ。
単純で、簡単で、万一、不具合が生じても、現場で修理できるカタチがベスト。
このいちばん単純な固定方法であっても、氷点下の環境で、締め付けベルトが凍結&結氷し、手指もかじかんで、自由な運動がままならない状況では、脱着にとてつもなく苦労したりするのだ。
これは実際に、僕が雪山で経験して得た教訓。だから、いい加減な妥協は、絶対にできない。
何かを結ぶ・固定するには「紐・ベルトがいちばん良い」という先輩の言葉を、僕は心から信じる。
修理と言うか、とりあえず、(上の写真の通り)壊れた部品だけ外して、登山靴の爪先を固定するベルトはまったく問題なく使用できるから、そのまま使おうか・・・と思っていたら・・・
スノーシューが壊れた山行を共にした、僕の大好きな先輩が・・・ 後日、やってきて・・・

手持ちの細引きと100均で購入してきたベルトで、壊れた僕のスノーシューを修理してくださった・・・。
「あのスノーシュー、ある?」って、先輩が言うから、「はい、あります。」って返事して、先輩に壊れたスノーシューを手渡したら・・・、その10分後。

まるで、これがオリジナル状態かと思うほどの出来栄え・・・


実際に登山靴を装着してみたところ・・・

先輩曰く。
「ベルトと紐が、いちばん確実なんだ。」
「擦り切れたら、予備と交換するだけで、直る。」
「だから・・・ これは、もう片方が壊れた時の分な・・・」
そう言って、予備の細引きとベルトを、僕に渡してくださった・・・。
さらに・・・
「 電車にも乗るし、ザックにそのまま付けて歩くわけにもいかんだろう 」と・・・

ただ、ただ、先輩に感謝。

先輩から借りたトレッキングポール2本を左手に束ねて持ち、右手にスノーシューを入れたバッグをぶら下げて、ザックを背負い、嬉々として僕は先輩と雪山へ・・・。


思えば・・・
もう、何十年も登っていなかった山に、「 一緒に登ろう! 」って誘ってくれたのも、この人だった。
「お近づきのしるしに・・・」って、先輩がプレゼントしてくれたメスティンで、先輩からもらったパエリアのもとを入れ、ドキドキしながら庭で炊飯して食べたごはんは、涙がこぼれるほど美味しかった。
「時間を見て、引き返せ」ってアドバイスをもらった山行では、日本でいちばん高い山を間近に見て大興奮。あまりのうれしさに時の経過を忘れ、無理な登山を強行。登頂は果たしたものの、下山途中でグリコーゲンが尽き、たどり着いたテント場では疲労困憊のため、空腹であるにも関わらず、食事すら摂れない状態に・・・。そのことを帰りの電車から先輩に報告したメールは、僕の山行の復活の証だ。
いつも、こんな僕のことを、先輩は気にかけてくれて・・・
ネットで「 これは、きみのアイゼン 」って勝手に決めて、勝手に購入して、本当は高価な良い品を格安で譲ってくれたり・・・
僕がルートを間違えた時も、いち早く、その誤りに気づき、谷底に降りてはいけない理由や、その怖さを実地に諭し・・・、雪に覆われた川の渡り方を、僕に教え・・・「こっちだ。」って、先輩の言う通りの方向へ進んで正しいルートに戻れたことも・・・。
また、ある山行では、悪化する天候を予測。登頂を断念して引き返す「勇気」の大切さを、教わり・・・
山での食事の際は、いつも食後の紅茶やコーヒーを皆に。
そして、ここ、いちばんのシーンで、ザイルを肩に断崖に立つ、その姿は・・・ 数万の敵を睥睨して一歩も引かない、古代ローマの戦士のようにも、見えた・・・。

修理したスノーシューは、実際に、20~30cmほどの新雪に覆われたこの雪山で丸一日使用。修理してくれた先輩と一緒に、標高差約1000mを登って降りた。行動中に、締め付けベルトはもちろん凍結し(左右とも)、山頂で昼食を作る際の脱着にはそれなりに苦労したが、行動そのものには「何の問題もなし」。
登山前日に降ったばかりのフカフカの新雪で、スノーシューを履いていても一歩踏み出すごとに足が数十センチは雪に潜り、スノーシュー無しで一緒に登ったアイゼン組のメンバーからは「二度と行きたくない山ナンバーワン(もちろん冗談。それくらいキツかったということ?)」との感想も出た中で、僕は筋肉痛すら出ず(先輩に勧められて食べたサラダチキンの効用も多分にあり?)。もちろん、先輩の修理により、見事復活した My スノーシューは、終日、外れる気配すらなし。

先輩が貸してくれたトレッキングポールのバスケットは、もちろん雪山用の大きいタイプ。
もちろん、締め付けベルトは、カチン・コチンに凍った・・・ が、1日で登って降りるというハードな山行をスノーシューはしっかりサポート。
今や、積雪期の山行に、なくてはならないアイテムとなった My Snowshoe.
ただ、ひとつだけ、妙に気になったことがあって・・・。
僕らのクライミング・リーダーである先輩は、なんと・・・
スノーシューを持ってない!
僕にスノーシューの購入を勧め、破損した際には、こんなにも素晴らしい修理を施してくれた先輩は、なぜ、スノーシューを履かないのか?
先輩曰く。
『 オレ、一度も履いたことない。 』
そこだけは、謎。
謎だが、そこがまた、先輩の不思議な魅力であることに、間違いはなく。
破損した TSL205 の修理で困っていらっしゃる方に、この記事が少しでも参考になれば、それは何よりの喜びです。*(^_^)*♪
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【追記】
登攀する際は、TSL205 の後部のロック(留め金)を解除して、太い針金状の部品(ヒールリフターと言うらしい)を前に倒し、かかとの位置を上げることで、足の負担がかなり軽減される。


いちばん最初にヒールリフターを試した際は、ストッパーでしっかり固定された可動部のあまりの固さに、この太い針金状の金属部品を無理して持ち上げるとスノーシューが壊れるのではないか? と、かなり心配したが、慎重にゆっくり持ち上げれば大丈夫のようだ。
実際、登りでヒールリフターを使用してみたが、使用していない状態よりも、使用した方がはるかにラクに登れた。ご参考まで。